NEWS NO.82(2015年度)
佐藤喜和教授が野生動物の国際会議で講演
第5回国際野生動物管理学術会議開催記念・一般公開シンポジウム
7月26日(日)に「都市と近郊における野生動物管理」をテーマとする国際シンポジウムが札幌コンベンションセンターで開催され、本学環境共生学類の佐藤喜和教授(野生動物生態学研究室)ら4名の学者が講演しました。
このシンポジウムは、第5回国際野生動物管理学術会議(7月26日~30日)の開幕を記念して開催されたもので、国内外の研究者など約600名が参加しました。
はじめに、リック・ベイダック氏(カナダ・マニトバ大学教授、アメリカ野生動物学会会長)が、「北米における都市域の野生動物の現状と課題」と題して講演しました。
ベイダック教授は、「北米では、1950年代から都市の拡大により野生動物の生育地に影響を及ぼし、野生動物が住宅地に出没するようになりました。野生動物については、20世紀末には、種の危機と並んで、都市に生息する野生動物の管理が重要な課題となっています。都市部に現れる野生動物をどう管理するか、人によって価値観が異なるため、全ての住民か納得するような解決方法はありません。解決に向けて、様々な利益関係を有する人たちが係わっていくことが重要です」と話しました。
次に、ローリー・プットマン氏(イギリス・グラスゴー大学教授)が「欧州における都市域の野生動物の現状と課題」と題して講演しました。
プットマン氏は、「ヨーロッパでは、ここ20~30年間に、シカやイノシシなどが都市部に定着しました。人々は市街地で野生動物が見られることを歓迎する一方、交通事故の増加や感染症の危険性など軋轢が増えました。野生動物管理には様々な方法がありますが、多くの人は殺処分には反対です。移住は捕獲に伴う疾患やストレスによる死亡率が高いという問題があり、避妊は動物への負担が少なく、費用も移住の半分程度ですみます。対策の意思決定に、市民が主体的に係わることが必要です」と話しました。
続いて、横山真弓氏(兵庫県立大学准教授)が「兵庫県における野生動物管理」と題して講演しました。
横山氏は、「六甲山に生息していたイノシシが、神戸市内に出没するようになり、農業被害も増えています。本来、イノシシは警戒心が強く、人に姿を見られることは少ない動物ですが、市街地で餌付けが行われ、市街地に食べ物があることを学習したイノシシが出没するようになったと考えられます。神戸市は餌付け禁止条例を制定しましたが、被害は減っていません。六甲山周辺ではイノシシの密度が高まっているため、適切な捕獲(駆除)が必要であり、人間には野生動物と適切な距離を保つことを伝え、意識改革することが重要です」と話しました。
最後に、本学の佐藤喜和教授(環境共生学類 野生動物生態学研究室)が、「札幌圏における都市と近郊の野生動物管理~人口減少期を迎えた札幌市の市街地と近郊におけるヒグマの管理」と題して講演しました。
佐藤教授は、「札幌市を含む石狩西部地域のヒグマは、1970年代以降に生息数が減少し、1991年に環境省のレッドリストに絶滅の恐れのある個体群として掲載されました。しかし、2010年以降には札幌市の郊外だけではなく、市街地にヒグマが出没する事例が増えました。グローバルな視点からレッドリストに掲載するヒグマの個体群を保全しつつ、ローカルな視点からヒグマとの軋轢を管理することが重要です。札幌市において生物多様性保全とヒグマ対策をどのように進めていくか、様々な価値観を持つ人たちを交えて議論し、札幌市ならではのグランドデザインを構築していくことが重要です」と話しました。
一般公開シンポジウムの終了後に開催された歓迎レセプションでは、ホクレン、雪印メグミルク、北海道産小麦消費拡大モデル実行協議会、北海道、サッポロビールなどの協賛により、道産野菜、ジンギスカン焼きそば、シカ肉製品、ビールなどを提供していただき、国内外からの研究者を「おもてなし」しました。
なお、今回の国際野生動物管理学術会議は、吉田剛司教授(環境共生学類 野生動物保護管理学研究室)が大会事務局長を務めるほか、伊吾田宏正准教授(環境共生学類 狩猟管理学研究室)、野生動物について研究する学生・院生が運営に携わっています。