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シンポジウム「北海道農業はTPPにいかに立ち向かうのか」を開催

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NEWS NO.19(2016年度)

シンポジウム「北海道農業はTPPにいかに立ち向かうのか」を開催

 

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 本学主催のシンポジウム「北海道農業はTPPにいかに立ち向かうのか」が、4月21日(木)に学生ホールで開催され、市民、学生、地方自治体職員、農業関係団体職員や教職員およそ250名が出席しました。

 

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 はじめに、主催者を代表して竹花一成学長があいさつを行いました。

 「本学が創立されて83年が経ち、約10万人の同窓生の多くが、国の根幹である第一次産業に従事しています。我々はTPPの問題をどう捉えればよいのか、そして今ここにいる、次世代を担う学生たちはどう立ち向かっていけばいいのか、それを考えるためにこのシンポジウムを企画しました。学生たちには、現場で働く方々と同じ会場にいる空気を感じ取り、しっかりと学んでもらいたいと思います。率直な意見交換が行われ、実りある会議となることを期待しています」。

 

 

 続いて、4名の演者による講演が行われました。

 

■第一報告 「TPP交渉の真実と問題点」

酪農学園大学 中原准一名誉教授

 

IMG_4900-1 中原名誉教授は、TPPの問題点全般について解説しました。

 「TPPは大筋合意という言い方がされていますが、各国が主権を懸けて交渉を行った帰結である、きっちりとした国際合意です。交渉の項目に聖域は設けられず、例外なき関税撤廃を前提として交渉に入りました。その合意内容について、森山農水相は『聖域と言っていた重要5品目は、関税率の変更や輸入枠の設定が行われ、無傷なものはない』という趣旨の発言をしました。

 『重要5品目』のコメ、麦、牛・豚肉、牛乳・乳製品、甘味資源作物において、コメについては7万8千トン、バター・脱脂粉乳については生乳換算7万トンの輸入枠が設定されました。代償措置としてこのような輸入枠が設定されています。関税を残したとしても、実質市場開放したのが、今回のTPP交渉の合意事項です。政府は関税撤廃の例外を確保できたと言いましたが、それは達成されていません。さらに、アトランタ合意では、日本は7年後に関税、関税割当、セーフガードを含む全面的な見直しを行うことが義務づけられています。

 参加した12カ国が協定文書に署名しましたが、その後、各国内での批准手続きが待っており、特にアメリカと日本では議会での承認が必要です。協定『第30章』において、交渉参加12カ国で調印後2年以内に批准が終了し、協定の文書管理国ニュージーランドで確認されてから60日後に、TPPは発効すると決められています。また、付帯条項として、調印後2年経過して12カ国全体の足並みが揃わなくても、批准した国が6カ国以上、かつGDPの合計が85%以上であれば発効するとなっています。日本のGDPは全体の16~17%、アメリカは約68%ですので、両国が批准すればほぼ発効します。しかし現在は、アメリカ国内でも、すんなりと批准するのは難しい状況と言われています。

 貿易交渉ですから日米双方にメリットがあると思いたいですが、TPPはそうではありません。裏ではいろいろな交渉が行われていましたが、その内容は日本では明らかにされていません。これからの批准に向けた議論のために、日本政府は情報を開示する必要があります」。

 

■第二報告 「北海道の稲作・畑作はTPPにどう対応するのか」

酪農学園大学 相原晴伴教授(循環農学類・農畜産物市場論研究室)

 

IMG_4905-1 相原教授は、北海道の稲作と畑作について、コメと小麦の2品目に絞り、市場動向やTPPの影響を報告し、対応策を述べました。

 「北海道のコメの生産量は60万トンで、新潟県に次いで全国第2位です。米価が下落傾向にあるため稲作経営は厳しく、2015年産の主食用米は価格がやや回復しましたが、それは国が主食用米から飼料用米への作付転換を推奨したことにより、飼料用米の生産が拡大して主食用米が減ったためです。

 コメの自給率は97%で、北海道の生産量を上回る年間77万トンを海外から関税割当枠として輸入しています。さらに、TPP合意の結果として7万8千トンが加わり、これが主食用米として流通すれば国産米の価格は下落することが予想され、飼料用米として流通しても、国内の飼料用米市場を圧迫し、結果として主食用米の価格は下落します。

 政府は対策として規模拡大を進めようとしていますが、経営規模別の生産費を見ても、規模拡大によって生産費が明確に低下するわけではありません。対策としては、各産地が特徴を活かして消費者や実需者の多様なニーズに合わせ、様々な品種のコメを生産していくことが重要です。

 小麦の自給率は13%で、多くを輸入に頼っています。小麦の生産費は60㎏当たり9,000円ほどで、一方、販売価格は2,000円台ですので、国はその差額を交付金(経営所得安全対策)として農家に補てんしています。交付金の財源は、輸入した小麦を売却する際の売買差益(マークアップ)ですが、TPP合意でマークアップが45%削減されることになりました。外国産の小麦が安く出回れば、国産小麦の価格が下がり、さらに交付金の財源が削減されます。

 コメと麦に共通する対策として、規模拡大や多収量品種の開発などにより、低コストを目指すことは必要ですが、それには長期的な取組が必要です。大生産地である北海道としては、農協組織を中心に生産者が結集して、安定した生産・販売体制を築くことが重要です」。

 

■第三報告 「TPPを見据えて何をすべきか」

浜中町農業協同組合 代表理事組合長 石橋榮紀 氏

 

IMG_4941-1 石橋氏は、酪農地帯の立場からTPPへの対応について述べました。

 「私は、TPPはアメリカのためのもので、アメリカの仕組を他国に飲ませるものだと思っています。農業ばかりではなく30項目に渡って条項があり、日本の生活環境を変え得るもので、日本国民の生存基盤が損なわれていくのがその本質です。

 浜中町農協は、180戸の組合員が10万トンの生乳を生産し、年間119億円を売り上げる事業家集団です。酪農家がやらなければならないのは、自分の経営課題を見つけ、それをどう解決していくかを考え、経営改善を行い、乳量を確保することです。

 これからの農業には環境共生が求められますし、規模拡大一辺倒ではなく、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活のバランス)を考慮し、自分の経営スタイルを選択する時代です。その結果として、高品質の牛乳を消費者に提供するのが、酪農家の使命です。そのためには、酪農の基盤をもっと強化しなければなりません。私が政府に求めるのは、人を育て、牛を増やし、良質な粗飼料を生産するための政策です。その場限りのTPP対策ではなく、草地改良に対する長期的な研究開発費など、酪農を持続させていくための恒久政策を、しっかりと実施してほしいと思います」。

 

■第四報告 「北海道酪農のTPPへの対応と構造問題」

酪農学園大学 荒木和秋教授(循環農学類・有機農業・酪農経営学研究室)

 

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 荒木教授は、ニュージーランドと日本の酪農の比較を通して、北海道酪農の課題を示すとともに、TPP対策について述べました。

 「1995年度には日本とニュージーランドの生乳生産量はともに860万トンでしたが、2013年度の日本は745万トン、2014年度のニュージーランドは2,150万トンと、約3倍の開きができました。世界一競争力が強いニュージーランド酪農は、放牧を主体に、泌乳を牧草が生育する自然のサイクルに合わせた季節繁殖や通年放牧によって生乳生産を行い、徹底した省力化とコスト低減を実現しています。利益を生まない設備投資は行わず、コントラクター(農作業請負組織)を活用することが一般的です。また、搾乳をしない冬季には長期休暇を取ることができます。それに対して日本では、牛舎で飼育し、通年搾乳を行うために、配合飼料に依存する高コスト酪農です。

 北海道酪農は、規模拡大が進み、1頭当たりの乳量は増加していますが、それは配合飼料を多用しているためで、大規模経営では資本収益率は低下しています。農業所得を頭数規模別に見ると、100頭以上飼育している農家は、80~100頭規模の農家よりも少なく、大規模の優位性はありません。また、酪農における労働時間は一人当たり年間2,456時間で、稲作の2倍に近い過重労働となっています。

 こうした現状に対する方策の一つは、放牧酪農です。労働を軽減し、飼料費を節約し、牛の健康を維持できるというメリットがあります。現在の規模拡大という政策から、コストを削減し、生活にゆとりを持たせる政策に転換することにより、後継者や新規参入者を確保し、地域社会の永続的な維持が可能になります」。

 

 講演後は4名の演者によるパネルディスカッションが行われ、TPPの国会での批准の見通しや、北海道食の安全・安心条例は守られるのかなど、活発な議論が交わされました。

 

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