NEWS NO.39(2014年度)
ようこそ先輩!実践酪農学で高橋勇氏が講義
本学農食環境学群循環農学類の「実践酪農学」では、酪農の分野でさまざまな立場で活躍している外部講師を招き、講義を行っています。7月4日(金) は、1984年に本学酪農学科を卒業し、現在は浜中町農業協同組合の参事である高橋勇氏が、「地域の生き残りをかけた浜中町農協の挑戦」と題して講義を行いました。
最初に干場信司学長が、「この実践酪農学を立ち上げる時、真っ先に協力してくださったのが、浜中町農協でした。それほど大規模ではありませんが、とても特徴的な農協で、日本で初めてという取り組みをいくつもしています。高橋さんは事務方の長で、本当にいろいろなことを考えながら農協の運営を行っている方です」と紹介しました。
「浜中町は人口約6,400人の町です。夏も涼しく、最高気温が20℃くらいにしかなりませんので、作物がうまく育たず、酪農しかできないところです。組合員数は183戸、乳牛飼養頭数は約22,500頭で、人口の4倍です。その7割が放牧で飼育されています。生乳の3分の2はハーゲンダッツアイスクリームの原料として出荷されており、組合員は、自分たちの生産する生乳が最高品質にあると自負しています。
浜中町農協は、さまざまのことに広範囲に取り組んでいます。それをやらないと、町はどんどん縮小し、地域が疲弊してしまうからです」。
1.牛乳のトレーサビリティ
「分析に基づいた酪農を目指し、1981年に酪農技術センターを設立しました。生乳の検査を中心に、土壌、飼料の分析も行っています。浜中町農協は全国に先駆けて飼料分析を行い、乳量との相関関係を分析することで生産を伸ばしました。
2002年には酪農情報システムを構築しました。乳牛1頭ごとの乳量と生乳の成分分析を行い、繁殖データ、診療データのほか、飼料、肥料の供給、移動などのデータが網羅され、牛に関する情報が全て蓄積されています。これは、2001年に国内で発生したBSEがきっかけで、個体管理の必要性が求められたためです。おそらくは自分の30数年の農協勤務の中で、最も大変な1年間でした」。
2.新規就農者の受け入れ
「離農による空き家が増え、そこをどうしようかというところから始まりました。1983年から新規就農者の受け入れを開始し、1991年には、育成から取り組もうという目的で『就農者研修牧場』を設立しました。当時は農協としては全国初の試みで、保育舎、分娩舎、乾乳舎、搾乳舎など牛の施設と、研修生のための住宅も備えています。ここでおよそ3年間、酪農の基礎から実践的技術までを学んでもらいます。
これまで33戸が新規就農し、離農したのは健康上の理由でやめた1戸だけです」。
3.地元企業との連携
「1995年よりコントラクター事業を開始し、牧草の刈取作業を地元企業に委託しました。北海道の酪農家は冬の飼料を夏のうちに準備しなければならないので、夏場は非常に忙しくなります。作業を委託することにより、これまで1か月かかっていた牧草の収穫を、わずか1日か2日で終えられるようになりました。
2009年には、地元企業を中心に出資を呼びかけて、浜中町農協と建設業等を含む10社で、農協出資型酪農生産法人『(株)酪農王国』を設立しました。地域全体で生き残るために、余っていた草地を活用し、異業種の人々と連携して農業経営を行うのが目的です。約390ヘクタールの草地で340頭の搾乳牛を飼育し、生乳の生産販売、乳牛販売、肉牛の飼育販売を行い、年間販売高は2億6,000万円です。農業の担い手育成にも取り組んでおり、将来的には、引き受け手のない離農跡地を賃貸または買い取ってもらい、『のれん分け』をして、法人経営の農場設立を目指しています」。
4.環境対策の取り組み
「自然エネルギーによる酪農を目指して、2010年に太陽光発電設備を導入しました。組合員105戸が1戸あたり10キロワットの太陽光発電パネルを設置し、発電した電力は、牛舎で搾乳機器の動力などに使われ、余った電力は売電しています。1戸当たり年間約20万円の電気料金削減につながっています。
原野や森林を草地に開拓して、生乳生産量を増やしてきましたが、同時に動植物の生息の場所を奪っています。森、川、湖沼、湿原などが孤立し、多様な生き物が生息しにくい状況になってきました。そこで、生産に支障のない土地に植林などをして森をつないで、生き物が生息できる環境を作ろうと、『緑の回廊』計画を実施しています。
また、浜中町と別海町を隔てる三郎川にサケやイトウが遡上できるように、組合員がボランティアで、取水堰に手作りの魚道を設置しました。昨年9月の台風で壊れてしまったのですが、趣旨に賛同した北洋銀行が修理の費用を出してくれることになりました。
2005年からは、家畜ふん尿の河川流出や悪臭等の問題に取り組んでいます。農場から出る排水を浄化するしくみを備えた遊水池などを設置して、徐々に効果が出ています。環境保全の取り組みは、将来にわたる農業生産活動の維持、発展の礎となります」。
「その時々に応じて、やらなければならないことはたくさん出てきます。浜中町農協の組合長のモットーは『ダメもとでもやってみよう』です。皆さんも社会に出たら、何をやらなければならないのか、どういう考え方を持って取り組まなければならないのかと考え、良いと思ったら一生懸命それに取り組んで欲しいと思います。
日本の食料自給の基盤は脆弱です。乳製品の自給率も年々下がっており、日本の生乳生産量は落ちています。しかし、経済発展に伴って、中国や東南アジア、インドにおいて乳製品の消費量は増えており、私は将来、酪農は花形産業になるのではないかと思っています。
皆さん、食について考えて下さい。情報をしっかりと集めて、自分が生きる術として考えて欲しいと思います」。