NEWS NO.48(2014年度)
公開シンポジウム「若者を農村に呼び込む交流集会」開催
本学農食環境学群・循環農学類主催の公開シンポジウム「若者を農村に呼び込む交流集会-我が町はどのように若者を魅了したか-」が、7月17日(木)に本学の学生ホールにて開催されました。学生、教職員、農業関係団体の職員など合わせて約250名が参加し、熱心に聞き入り、討論を行いました。
シンポジウムは、本学の吉岡徹准教授(循環農学類 農業経営学研究室)の司会によって進められ、はじめに、日高町で肉牛農場を経営する伊藤俊介氏(本学農業経済学科2001年卒)が、「日高町門別賀張地区に入植して」と題して、自身が日高町に新規就農した体験談を語りました。
「私は岡山県のサラリーマンの家庭に生まれましたが、牧場を経営してものづくりをしたいという希望を持ち、酪農学園大学に進学しました。卒業してすぐに新規就農はできないので、酪農ヘルパーという仕事を選びました。経験を積みながら約4年間チャンスを探していたところ、肉牛農家で新規就農ができるという話を耳にしました。農場を経営するのは大きな借金を背負うということですから、なるべく早く取りかかればそれだけ早く返済できると思い、ためらうことなく独立を決意しました。
新規就農にあたっては、資金面でさまざまな支援制度があります。使えるものはどんどん利用してください。私の場合は補助を受け、農協が建物と牛を購入して、それをリースするという制度を利用しました。リース料は最大5年間は据え置き、その後12年かけて支払います。つまり就農から17年で返済することになります。現在、年間およそ400万円を返済しています。
自己資金は必要です。私の場合、500万円を貯蓄し、さらに両親から300万円を借りて、あわせて800万円を用意しました。しかし、新規就農にあたってはいろいろと必要で、どこに行ってしまったのかと思うくらい、あっという間に使い切りました。
物事は計画通りにはなかなか進みません。牛舎の鍵を閉め忘れて、80頭いた牛を全部逃がしてしまったこともありました。受胎もうまくいかず、初めての分娩では子宮脱を起こし、こんなことが続いたらどうしようと思いました。子牛はなかなか大きく育たず、市場での評価もさんざんでした。しかし、少しずつ技術を身に付けていくと成績も上がり、楽しくなってきました。
現在は、繁殖牛120頭、交雑種繁殖牛200頭、育成牛180頭、合計約500頭を、私と妻と義父の3人で飼育しています。家族労働での大規模経営を追求し、最先端技術を導入しました。哺乳ロボット、自動給餌器、分娩監視装置などを導入することにより、少ない労働力でよりきめ細やかな個体管理ができます。農場の1頭あたりの出荷日齢は全道平均より短く、販売価格は上回っています。
新規就農を志すなら、良いパートナーの存在はとても大切です。そして、しっかり資金を貯めて、チャンスをつかんでいただきたいと思います」。
続いて、むかわ町産業振興課・農政グループ主任の飛岡雅幸氏が、「むかわ町の新規就農の取り組みについて」と題して、町の担い手対策を紹介しました。
「むかわ町の新規就農の取り組みは、町の若手農家たちの、もっと仲間を増やしたいという思いから始まりました。彼らが主体となって『新規就農等受入協議会』を設立し、就農相談会や農業体験の企画、受け入れ調整を始めました。
新規就農を目指す方は、まずは就農相談会に出席し、その後、2泊3日から最長1か月程度、農家に住み込んで短期就農体験をします。それから1年~3年の長期農業体験をします。これを終了して独立就農を希望する方は、具体的な就農計画書を提出し、審査に合格すれば、今度は研修農場で原則2年間、研修を受けます。つまり、独立までは通常、最短で3年はかかることになります。実際に独立就農した人は、研修農場を設立した2010年以降で5名です。
独立就農できる可能性が高い人というのは、意欲があることはもちろんですが、十分な自己資金がなくてはなりません。さまざまな支援制度は受けられますが、それでも300万円から500万円程度の資金は必要です。そして、これが一番大事なのですが、一緒に営農するパートナーがいることです。農業は一人ではできません。
うまく独立するまでには至らない人たちもいます。一番多いのは、想像していた農業と現実との違いで、思った以上に農作業がきつかったというものです。
新規就農者たちと向き合っていて感じるのは、彼らは人生を賭けて来ているということです。30代や40代の働き盛りで、小さい子どもたちを連れてやって来ています。彼らは、町の農業者たちにとって大きな刺激になっており、私は町を動かす起爆剤にもなり得ると感じています。
これから新規就農を目指す方は、とにかくまずは体験してください。体験することで、農業の現場をできるだけ多く知って欲しいと思います。そして、就農はゴールではなく、そこがスタートです。そこからが本当の勝負なんだという気持ちを、忘れないでいただきたいと思います」。
続いて、本学の猫本健司准教授(循環農学類 実践農学研究室)が、「学生は夏にどこに実習に入ってきたか-農村生活を目指す若者たち-」と題して、本学の取り組みを紹介しました。
「本学では、伝統的なカリキュラムとして、学外農場実習を行っています。北海道内の農家に、原則住み込みで3週間実習し、農家、農村の生活や実態を体験します。
このカリキュラムの一番の特徴は『委託実習』とも呼んでいるとおり、本学から受入農家にこうやってくださいとは言わず、実習指導の内容のほとんどをお任せしていることです。これは、本当の意味での農家体験をして欲しいという意図からです。大変なこともありますし、ある意味、不条理なことも経験するかもしれません。しかし、本学のモットーである『実学教育』を実践することにより、現場に強い学生を輩出しています。
本年度は、200名弱の学生がこの実習を受ける見込みです。昨年度の実習を受けた学生のアンケートでは、約9割が参加して良かったと感じており、また、自己評価については、同じく9割が『良くできた』『まあまあできた』と回答しました。
3週間の住み込みでの実習というのは、受入農家にとっても大きな負担になります。それでも、毎年学生が来るのを楽しみにしてくれている農家が、大勢いらっしゃいます。その方たちは本学にとって宝物です。
実習に参加した学生たちには、新規就農を目指している学生も少なくありません。地方では、いかに若者を呼び込むかに知恵を絞っており、どう農業を志す学生とマッチングを図って地域振興に貢献できるかが、これからの課題です」。
最後に、本学の井上誠司教授(循環農学類 農業政策学研究室)の司会のもと、総合討論が行われました。その中では、新規就農の受入機関同士が横の連携を密に取り、全道で本州から新規就農者を取り込む「オール北海道」体制が作れないかという提案がなされ、予定時間を超えて活発なディスカッションが行われました。
また、演者から新規就農を目指す学生に向けて、伊藤氏より、「人の話に耳を傾け、いろいろなことを見て、聞いて、頭を柔らかくして、良いことはどんどん取り入れてください」飛岡氏より、「人とのコミュニケーション能力を鍛えてください。何をやるにしても、とても役立ちます」猫本准教授より、「一人が二人になると、パワーは10倍になります。伴侶の問題をみなさん上手に解決してください」とメッセージが贈られました。