NEWS NO.167(2014年度)
岩野英知准教授、樋口豪紀教授の研究チームが獣医学術学会賞を受賞
2015年2月13日(金)から15日(日)まで、岡山県岡山市で開催された「平成26年度日本獣医師会 獣医学術学会年次大会」において、本学獣医学類の岩野英知准教授(獣医生化学ユニット)と樋口豪紀教授(獣医衛生学ユニット)の研究チームが、産業動物部門での第1位となる獣医学術学会賞を受賞しました。
昨年9月に開催された北海道の獣医学術地区学会において、研究チームは産業動物部門93題の研究発表の中から、北海道地区学会賞に選ばれました。今回の年次大会では北海道代表として発表を行い、21題の研究発表の中から第1位に選ばれました。
受賞した研究業績は、「競走馬の細菌性角膜炎に対するファージセラピーの検討」です。抗生物質の多用による薬剤耐性菌の増加が懸念される中で、抗生剤に頼らない新しい対処法を求め、バクテリオファージウイルス(ファージ)を用いた角膜炎の治療の検討を行いました。
馬角膜炎由来菌に対して溶菌作用(※ウイルスが細菌に取りつき死滅させる)を持つファージを数種類分離し、モデルマウスに投与して検証した結果、菌数が大幅に減って炎症を抑え、角膜炎を抑制できたことを確認しました。また、溶菌作用の異なる2種類のファージをカクテル化して投与すると、さらに効果が高まることも確認しました。
岩野准教授は「細菌による感染症は、動物や人に対してさまざまな病気を引き起こし、時には命をも奪う病気です。近年、薬が効かない薬剤耐性菌が増えてきており、問題になっています。そうした薬剤耐性菌に対しても感染し、菌を溶かしてしまうバクテリオファージ(ファージ)というウイルスが自然界にはたくさん存在しており、その力をうまく利用して、病気をひき起こす細菌と戦っていこうというのがファージセラピーです。本研究では、このファージセラピーを獣医療で応用開発していこうという研究です。この研究の発想は、薬剤耐性菌研究の専門家である田村豊獣医学群長(食品衛生学ユニット)の『薬剤耐性菌にファージセラピーを応用しないかい、君使ったことあるでしょ?』のひと言から始まりました。ファージは、抗生物質が開発される以前から見つかっており、治療展開への研究も一部で進められましたが、病気治療というよりは、むしろ実験道具の一つとしての研究使用が進んでいました。そのような背景もあり、当時の私には、ファージを治療へ展開するという発想は全くなく、とても驚いたのを覚えています。
また、ウマの角膜炎への応用という発想も、偶然の出会いから生まれました。私は、酪農現場での大問題である乳房炎へのファージの応用に挑戦していたのですが、なかなか道は険しく、応用までにはいくつものハードルがあり、新たなアイデアを求めていました。そんな中、獣医学会で発表した我々のポスターがJRA競争場総合研究所の丹羽秀和先生の目に留まり、角膜炎に応用するアイデアを頂くことができました。
このように今回の発表は、さまざまな方々との偶然の出会いがあって結実したものです。薬剤耐性菌に対する問題に直面していた、いろいろな立場(研究、臨床、調査)の人が接点を持つことで良い結果が生まれた、必然の結果だったのかもしれません。さまざまな人と繋がって研究を積み上げていくのは、楽しいです。
今回の受賞がゴールではなく、応用してこそ、この研究は価値があります。まだまだ応用までには多くのハードルがありますが、引き続き研究を続けて、実用化に近づけていきたいとあらためて思いました。本研究に携わってくれた学生、大学院生達にも感謝です。今後も、獣医学の基礎研究者として獣医臨床に貢献できる研究、さらにその成果が人の医学をはじめさまざまな分野に発信、貢献できるような研究を追求していきたいと考えています」と話しました。
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