NEWS NO.49(2015年度)
実践酪農学で共働学舎新得農場代表 宮嶋望氏が講義
本学農食環境学群循環農学類の「実践酪農学」では、農業の分野でさまざまな立場で活躍している外部講師を招き、講義を行っています。6月19日(金)は、心や体に困難を抱えた人を受け入れて共に働き、牛を飼育してチーズを中心としたものづくりを行っている「共働学舎新得農場」代表の宮嶋望氏が、「共に働きともに生きる~自然のリズムに合わせたモノづくり、生き方~」と題して講義を行いました。
はじめに猫本健司准教授(実践農学研究室)が、「宮嶋さんはフランスから帰ったばかりで、まだ新得町に戻らないまま、本学に講義に来てくださいました。フランスでは世界のチーズコンクールに共働学舎のチーズを出品し、金賞を受賞されました。世界で評価され、チーズづくりの先端で活躍している方です」と宮嶋氏を紹介しました。
「共働学舎には現在74名のメンバーがおり、その半数がハンデを抱えた人たちです。競争社会ではなく協力社会をつくりたいという思いのもとに1974年に開設され、日本の社会に居場所を見つけられなかった人たちが集まっています。彼らは、より良い世の中をつくるためには何が必要かを伝えてくれるメッセンジャーです。
私たちは、人、家畜、微生物、作物という、生きているものと共に働いています。経済的にしっかりと自立するためには、それらのモチベーションを上げることで、隠れた能力を引き出さなければなりません。脳科学の研究によれば、人は、指示されたことをやるのではなく、自ら決断して実行し、それがうまくいった時に幸福を感じるそうです。共働学舎では仕事を指示するのではなく、毎朝のミーティングで、各自がその日何をするかを発表し、やりたいことをやってもらっています。例えば、ある統合失調症の人の場合、羊の毛を丸めてフェルトボールにする作業が好きで、それをずっと行っていました。柔らかい物で手のひらを刺激することは、生理的に人の心を落ち着ける作用があります。それは仕事のモチベーションを高めることにつながり、なおかつ、できたフェルトボールはストラップとして加工して、立派な商品になりました。
人に限らず、生きているものの潜在能力を引き出すためには、それに適した環境づくりが大切です。微生物や作物、家畜を元気にするために、共働学舎では建物に木や石などの自然素材を使い、床には炭を埋設して、生きたエネルギーの流れをつくるようにしています。そうすることで、牛舎の匂いが消え、ハエがいなくなり、牛がリラックスして健康になり、より良い牛乳を出してくれます。そこから作ったチーズが、2004年にスイスのチーズコンテストで金メダルとグランプリを獲得し、2週間前にフランスで開催された『モンデュアル・デュ・フロマージュ2015』ではゴールドを受賞しました。スーパーゴールドには長野県と千葉県のブルーチーズが選ばれ、日本のチーズが世界レベルで評価されるようになったのは、とてもうれしいことです。
この、『いのちを生かす生産体制』を、自分の牧場だけではなく、これからは近隣に広げて地域活性化につなげたいと思っています。協力して良いものを作っていけば、必ず道は開けます」。