NEWS NO.169(2015年度)
実践農学で、月形町で花き農家を営む宮下裕美子氏が講義
本学の農食環境学群・循環農学類の「実践農学」では、農業の分野でさまざまな立場で活躍している外部講師を招き、講義を行っています。12月18日(金)は、月形町で花き農家を営む傍ら、月形町議会議員として活躍する宮下裕美子氏が、「花き栽培の魅力と可能性」と題して講義を行いました。
宮下氏は宇都宮大学卒業後、化学メーカーで除草剤の開発研究に4年間従事したのち、1994年、27歳の時に、花き農家を目指して夫と共に月形町に移住し、2年後に独立就農しました。現在は月形町議会議員の3期目を務めながら、北海道就農アドバイザーとして、新規就農者の支援も行っています。
「就農を決意したのは、一生できる仕事をしたかったからです。男女雇用機会均等法ができたばかりの30年前は、女性が会社勤めをしながら、子供を持って仕事と家庭を両立するのは難しい時代でした。出身地の関東は農地価格が高額ですが、北海道では4分の1の値段で買えたため、就農場所を北海道に決めました。花きは少ない面積でも収益性が高く、技術面で工夫できる余地があり、規制が少なく栽培の自由度が高いことが魅力でした。月形町は花きの出荷量が全道一で、その頃、農外からの新規就農の研修などの受け入れ態勢を整えつつあり、私たちが新規就農の第一号となりました。
現在は、16棟のビニールハウスと露地、合わせて約1.5haの面積で花き栽培を行っています。主力は、輪菊とスカビオサ、スキゾスチリスで、そのほかに毎年新しい花にチャレンジしています。
輪菊は仏花で、需要が多く収益性の高い花です。とても手間がかかり栽培が難しい花ですが、それだけに、技術をしっかり身につければ、他の農家と差別化ができます。さまざまな工夫ができて栽培の好奇心を満たしてくれると同時に、仏様を敬う心を載せて贈る、人と人の心を通わせる花でもあります。
スカビオサは、ブライダルに用いられることの多い花で、秋のブライダルシーズンに需要が高まります。流通量はそれほど多くなく、全国に流通している半分以上を私の農場で生産しています。需要期の秋に合わせて収穫するためには、種子から栽培しなければなりませんが、種子は非常に高価です。そこで個人輸入することに決め、海外の会社を調べてFAXでやり取りして交渉し、4分の1の価格で購入できるようになりました。為替の変動や荷物の到着遅れ、未着などのリスクはありますが、それでも大きなメリットがあります。
新規就農とは、マイナスからのスタートです。後継者ならば土地や技術などの経営基盤が整っていますが、新規就農は初期投資費用が大きく、借金をして技術も乏しく、経営が安定して一定の収入を得るまでには時間が必要です。私の場合は、就農して10年間は100万円の収入で4人家族が生活をしました。野菜は近所の方から分けてもらい、子供の服はいただいたお下がりばかりで、今も築90年の家に住んでいます。それでも自分たちで選んだ生活ですから、全く苦にはなりませんでした。
農業を選んで、本当に良かったと思っています。お金も大事ですが、時間や自由はとても大切です。ものを創り出すということは知的好奇心を満たしてくれ、創ったものは人に喜びを与えます。そして、常に自然との一体感を感じられます。これは、農業以外では得られなかったと思っています」。