NEWS NO.31(2014年度)
株式会社明治 北海道酪農事務所長 渡辺雅一氏が講演
循環農学類主催のセミナー「日本とニュージーランドの酪農産業の動向」の第2回目が、6月12日(木)本学中央館1階学生ホールにて開催されました。株式会社明治・北海道酪農事務所長の渡辺雅一氏が、「日本の酪農乳業の現状について」と題して講演を行いました。学生と教職員およそ150名が、熱心に聴講しました。
株式会社明治は、明治グループの食品事業を担う会社として、菓子、牛乳・乳製品、その他の食品の製造販売等を行っており、北海道酪農事務所は生乳の調達を担当しています。渡辺氏は株式会社明治の概要を紹介し、その後4つのテーマに沿って話しました。
1.日本の酪農乳業の概要
「全国の酪農家戸数は約1万9千戸で、約50年前(1965年)の40万戸近くと比べると激減しています。しかし、専業化と大型化が進み、1戸当たりの飼養頭数は増え、改良が進んでいるので、1頭当たりの搾乳量は4,000kgから8,000kgレベルまで増えています。
生乳生産量は1996年の866万トンがピークで、現在は745万トンです。都府県と北海道の割合は2010年に逆転して、北海道が全国の51.7%を占めており、生乳の重要な供給基地です。生乳の用途は、都府県は飲用向けが多いのに対して、北海道は生クリームやチーズ、脱脂粉乳など加工用途向けが多いのが特徴です」。
2.生乳の取引について
「生乳は、指定生乳生産者団体(以下、「指定団体」という。)を通じて取引が行われています。生産者は総合農協・酪農専門農協を通して指定団体に販売委託をし、指定団体が我々乳業者と取引をします。わずかですが、指定団体に加入できないために、乳業者と直接取引する生産者もあります。酪農学園大学や畜産試験場などがそれにあたります。
生乳は、飲用牛乳、学乳のほか、生クリーム、発酵乳、チーズなどの乳製品に加工され、それらの用途によって乳価が決められています。乳業者は用途ごとに計算した乳代を指定団体に支払い、指定団体は補助金等を加え、経費を差し引いて、生産者に支払います。その乳価は用途別ではなく、プールした一律乳価での支払いとなります」。
3.酪農乳業に関わる国の制度
「『加工原料乳生産者補給金等暫定措置法』に基づいて、指定団体と乳業者の合意により用途ごとの乳価が決められています。国が介入するのは、生乳の価格形成を合理化し、牛乳・乳製品の価格を安定させるのが目的です。
2000年度までは、政府が基準取引価格(=乳業者支払可能乳代)と保証価格(=生乳再生産コスト)を決め、保証価格から基準取引価格を差し引いた価格差を生産者に補給金として支払われていました。2001年度からは法が改正され、基準取引価格が廃止され、生産者補給金の額のみを一定の算定ルールに従って政府が決める方式に変わりました。これは、国際化が進む中で、市場原理を導入することを目的とした改正です。最近では、指定団体の有り様についての議論もあります」。
4.株式会社明治の対応
「当社は、都府県の市乳工場については31(1998年時点)から17へと大幅に統廃合を進めてきました。北海道においてはチーズ工場を新設しました。少子高齢化の流れに合わせて、栄養食や流動食を生産する工場を新設しています。
国際化対応のため、国の政策もありホクレンと協議しながら海外の乳製品に競合しづらい生クリームなど液状乳製品の活用を拡大し、またホクレンの取引全体でも液状乳製品の用途は増加しました。
一方で、高付加価値牛乳として、2006年から『明治オーガニック牛乳』を販売しています。農家が土作りから取り組んで、商品開発から有機JASの認証を受けて販売まで足かけ7年かかりました。また、「北海道牛乳彩る季節(=放牧酪農牛乳)」も2011年6月から販売しています。有機酪農・放牧といった酪農のあり方を、お客様に紹介することを目的として、このような商品をラインナップしています。
我々は、牛乳そのものの価値を高めていきたいと、生産者と対話をしながら取り組みを進めています。良質な生乳は、健康な牛から搾られます。牛舎や処理室の衛生管理、具体的には消毒槽の設置や施錠の徹底など、細かなところからの改善に取り組み、良質な生乳を生産していることをお客様にアピールし、牛乳のより一層の信頼を得て、商品価値を高めていきたいと考えています」。