NEWS NO.165(2015年度)
カセサート大学留学報告会・タイ熱帯感染症研修報告会を開催
12月15日(火)、本学B1号館において「タイ王国カセサート大学獣医学部留学報告会」及び「タイ熱帯感染症研修報告会」を開催しました。
<タイ王国カセサート大学獣医学部留学報告会>
本学、北海道大学、東京大学の3大学は、文部科学省の大学の世界展開力強化事業(AIMSプログラム)に採択され、タイのカセサート大学と単位互換をともなう獣医学部学生の交換留学(臨床研修)を行っています。2015年度は、本学獣医学類5年生の10名が、9月2日から11月28日まで、カセサート大学で約3カ月間の研修を行いました。
●浮田真琴さん、横山岳生さん、新免明恵さん、今井文さん、小松和平さん(臨床専修コース)
城戸美紅さん、 小林なつみさん、 中村優臣さん、 田村祐斗さん、 中村暢宏さん(基礎専修コース)の報告
「4月にこの10人のメンバーが決まってから、タイについて学習したり、英語での獣医療のレッスンを受けるなど、留学に向けての事前準備を行い、9月にタイに出発しました。カセサート大学では、前半は首都バンコク市内にあるバンケンキャンパスで、後半はそこから約80km西に位置するカンペンセンキャンパスで研修しました。
バンケンキャンパスでは、基礎コースの学生5名は、疫学、病理学、微生物学などを学びました。約千匹の犬が収容されているドッグシェルターで、観察、データ収集、解析を行ったり、病理解剖をして死亡原因を推定して発表したり、グループディスカッションを行いました。病理特有の専門用語を英語で話すのはとても難しく、もう少し事前に準備をしておけば良かったと思いました。」
「臨床コースの学生5名は、カセサート附属動物病院での実習を行いました。病院では1日30~50件というかなりの数の手術を行っており、手術に立ち会って麻酔管理をしたり、症例研究のレポートを提出しました。週に2回、症例検討会を行うのですが、そこで驚いたのは、タイの学生たちは、先生が選んだこの手術法は正しかったのか、他のやり方があったのではないかと、日本では考えられないような踏み込んだ意見を積極的に述べていたことでした。」
「カンペンセンキャンパスでは、実習農場で牛に麻酔をしての検査や、削蹄などを行いました。動物病院では、往診に行って診療の手伝いをしました。日本では見られない、口蹄疫や牛流行熱などの症例を実際に確認することができました。また、大学所有の森林にある、およそ130頭の象や虎が生息する野生動物保護区域に行き、軽トラックに乗って動物を観察しました。」
「タイの獣医学生は、5年次に獣医国家試験を受け、6年次は資格を持って実際に臨床実習を行いますので、知識や経験が豊富で、自分たちはタイの学生に負けていると感じました。それをこれからのモチベーションにして、頑張っていこうと思います。タイの方々にはこれ以上ないくらい親切にしてもらい、とても充実した3カ月を過ごすことができました。来年タイに留学する後輩たちや、タイから来る留学生のバックアップをすることで、その恩返しをしたいと思います。」
<タイ熱帯感染症研修報告会>
本学の学術交流委員会が主催し、学術交流協定を結ぶタイのマヒドン大学および狂犬病センターで、2名の学生が10日間の研修をし、熱帯感染症について研究しました。
「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases(NTDs)」とは、WHO(世界保健機関)が「慢性的である、一つの地域に重複して発生がみられる、貧困を助長する、などの特徴をもつ熱帯病」と定義している17の疾病です。感染原因は、原虫、細菌、ウイルスなど多岐に渡ります。その中でも、特に都市部で多くみられるデング熱は、17疾病の中でも最多の年間5千万人~1億人が罹患しており、40億人が疾病のリスクにさらされているウイルス感染症です。
タイはデング熱の常時発生国のひとつで、ヤブカがウイルスを媒介して人や動物に感染します。マヒドン大学では、2日間をかけてキャンパス内でカの採集を行いました。ドラフト内にカを誘引する匂い物質を設置したトラップで、ヤブカ、イエカ、ハマダラカの計47個体を採集しました。ハマダラカはタイでは非常に珍しく、貴重なサンプルとなりました。ヤブカとイエカは、本学のキャンパス内でも見られます。タイの平均気温は29度で、気候条件の異なる北海道でも同じカが生息していることが興味深く、今後生態調査を進めてみようと思いました。
私は狂犬病を研究しており、タイ赤十字の研究施設の一つである狂犬病センターを訪問しました。狂犬病により、年間5万5千人が亡くなり、世界の2人に1人がその脅威にさらされているとも言われています。
狂犬病センターでは、狂犬病及び生物毒・植物毒の研究をしており、狂犬病の疑いのある動物を受け入れて診断をするほか、ワクチンの提供も行っています。飼い犬の登録、ワクチン接種、野良犬の捕獲などの対策により、タイでは狂犬病は減少傾向にありますが、完全にはなくなっていません。飼い犬の登録率が非常に低いことや、仏教国であるため、野良犬を捕獲して殺処分することに抵抗感が強いことなどが理由です。現地に赴き、感染症の予防を進めるためには、単に技術的なことだけではなく、社会的、文化的な要因まで考慮しなければならないということを実感できました。