NEWS NO.7(2016年度)
三枝俊哉教授が、2016年度日本草地学会賞を受賞
本学循環農学類の三枝俊哉教授(草地・飼料生産学研究室)が、2016年度日本草地学会賞(斉藤賞)を受賞しました。
日本草地学会は、日本の草地農業の発展を願って、草地と飼料作物に関する学術の進歩とその知識の普及を図ることを目的として、1954年に発足しました。毎年、日本草地学会賞が選定されており、三枝教授は、日本における草地農業の発展に顕著な意義をもつ研究業績をあげ、それが普及技術の段階まで達していることが評価されての受賞です。去る3月29日(火)に、石川県立大学で開催された2016 年度日本草地学会石川大会において授賞式が行われ、賞状と楯の授与と、記念講演が行われました。
受賞した研究内容は、「寒地型放牧草地の養分循環に基づく持続的維持管理に関する研究」です。三枝教授は、放牧の目的によって適した草種が異なること、その草種特性に応じて適した維持管理法が異なることを、チモシーとケンタッキーブルーグラスを使って具体的に示しました。
チモシーは、栄養価が高く集約放牧に好まれます。寒さに極めて強いものの、再生が遅く、放牧によって衰退しやすい草種です。これを上手に維持するには、放牧後の草を長めに残すことにより、葉面積を確保しつつ分げつの交代を緩やかに進め、再生速度を高く保ち続ける必要があることを解明しました。また、ケンタッキーブルーグラスは、放牧条件でも安定した草種ですが、栄養価が低く、北海道では嫌われていました。しかし、シロクローバを混ぜ、短草状態を維持することで放牧草全体の栄養価を高め、放牧面積や飼養頭数、施肥を調整することで、同一放牧草地に長期間連続して放牧する連続放牧が可能となりました。こうして、嫌われ者だったケンタッキーブルーグラスを、省力的な放牧に向く草種として見直すことができました。
さらに、北海道内の3カ所(道東・道央・道北)の放牧草地において、基幹草種のそれぞれ異なる草地を選定し、放牧期間や被食量、草の養分含量、施肥量、土壌養分含量などを調査しました。それらのデータから養分循環を考慮して、放牧草地の養分収支(※)を算出した結果、道内の放牧草地への施肥適量は、地域や草種、土壌に関わらず、ほぼ一定の範囲に集約できることを突き止めました。
この研究により、北海道の放牧草地における施肥標準は、その量が大幅に低減され、草種・地域・土壌といった区分も簡素化する方向へと、抜本的に見直されました。こうした成果が、放牧による乳肉生産を展開する上で極めて重要な意義を持ち、日本における草地農業の発展に大きく寄与するという高い評価を受けました。
※養分収支:年間の養分施肥量から、放牧によって草地から減少する養分量(牛の採食や排せつ行動の結果、放牧草地から肥料として有効な養分が減少する量)を差し引いた値。正の値は放牧草地への養分蓄積、負の値は養分の収奪方向を示す。
●三枝俊哉教授
「放牧草地の施肥管理研究は、家畜の管理に労力を要し、養分循環の要因が多岐に渡って牧区内のばらつきも大きいため、多くの調査項目に膨大なデータが必要で、これまであまり取組がなされてきませんでした。およそ11年をかけての研究はとても一人ではできるものではなく、ご協力いただいた北海道立根釧農業試験場(現・地方独立行政法人 北海道立総合研究機構農業研究本部 根釧農業試験場)や農林水産省北海道農業試験場(現・国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター)の先輩、同僚、後輩のみなさん、実際に草地や家畜を管理してくれた研究支援職員のみなさん、現地で協力してくれた多くの機関や農家のみなさん、そして健康な生活を支えてくれた家族には、本当に感謝しています。
研究課題の巡り合わせも幸運でした。若い頃、根釧農業試験場で土壌診断を担当し、採草地(乾草やサイレージなど貯蔵飼料の原料を収穫するための草地)の土壌養分管理を学びました。北海道農業試験場では放牧草地の維持管理を知り、再び勤務した根釧農業試験場では家畜ふん尿の肥料効果を研究しました。これらの経験が下地となり、難しいと言われていた放牧草地の研究を可能にしてくれました。
本研究で提示した施肥適量の水準自体は、すでに先進的な放牧酪農家の方々が独自の経験から得ていた施肥適量に近いものでした。しかしこの研究で、農家の試行錯誤で得た『正解』に科学的な裏付けをもった論理を付加したことにより、今後は、牛の頭数、飼い方、牧区構成などの放牧条件が様々に異なっても、再び試行錯誤を繰り返すことなく、より適切な施肥量を設定できるようになったことに価値があると自負しています」。